何度も空耳のベルが鳴り、体を起こす

卒業証書


何度も空耳のベルが鳴り、体を起こす。いつもなら憎らしい目覚ましが怒鳴ってくる時間。でも今日から目覚ましはもういらない。



卒業式の次の朝、悲しいことにいつもの時間に目が覚めた。いつもならどれだけ目覚ましが鳴っても起きやしないのに、もうどうでもよくなってから起きられるなんて。布団にくるまっていた。だけどもう眠くない。しょうがなく起き上がった俺は、シャワーを浴び、CDのスイッチを入れ、冷蔵庫からオレンジジュースを取り出して飲んだ。トースターでパンを焼いている間に卵を焼く。こんな優雅に朝食を取ったのは何ヶ月ぶりだろう。郵便受けからとってきた新聞を読みながら朝ごはんを食べた。


もう学校に行かなくてもいいのか。卒業。大学の勉強はおもしろくなかった。大学を辞めてしまおうかと何度も思った。大学の授業なんて俺には苦痛の塊だった。先生はただ配ったプリントを読み上げているだけ。声が小さくて聞き取れないし、かといって聞いていても何を言っているかさっぱりわからない。時間の無駄だと思ってサボっていたら、いつの間にか出欠をとられていた。またひとつ、またひとつと単位が消えていく。しかし、授業は俺にとっては「単位」でしかない。単位以上のものを得られる場ではなかった。「何のために大学に行っているのか」。その答えは「卒業証書をもらうため」でしかなかった。担当教官の言われるがままに卒論も書いて、俺は昨日その「卒業証書」をもらったのだ。


何もすることのない昼はあまりにも暇だった。いつもならまだ寝ている時間なのに、なぜか今になって眠くならない。しょうがない、読書でもするか。1年前に買って放っておいた専門分野の本を手に取る。


気がつくと夕方になっていた。俺は夢中で本を読んでいた。止まらなかった。きっと俺は小学生が理科の実験をするときのような顔をしていただろう。


夜になって俺は泣いた。俺は4年間何をしていたんだ。こんなおもしろいことがあったのに、俺は何もしなかった。はじめからもっと勉強をしていたら。勉強の楽しみを知っていたら。俺の4年間の苦痛はなかっただろう。そしてもっと楽しい4年間を送れていただろう。もし、もっと、そうすれば・・・



目覚ましのベルが耳に響く。今度は空耳ではない。今日はきちんと授業に出てみよう。形だけの卒業証書はいらないから。